日国友の会

いつわ【逸話】

読者カード 語釈 2019年07月19日 公開

2019年07月11日 ingwさん投稿

用例:市村座の楽屋で菊五郎の部屋が自分のより少し奇麗なのが癪に障つて出勤を肯じなかつたことは世の中に余りによく知れてゐる彼の逸話の一節である。
『泣いじやくり』 1911年 髙村豊周
語釈:興味深いはなし。エピソード。〔『三省堂国語辞典 第七版』〕

コメント:既存の語釈「ある人に関する、世間にあまり知られていない話」や、「逸」の「世間には知られていない」〔『新潮日本語漢字辞典』〕という意味からすると、この例の「よく知れてゐる彼の逸話」は矛盾しており、別義とみてよいかと判断しました。『三省堂国語辞典』はそのように処理しているようです。中村明『日本語 語感の辞典』では「逸話」を「人や事柄に関する主要な情報ではなく、それに付随する話をさ」すと解しており、原義で「世間にあまり知られていない」ことが必須だったのかは再考の余地があるようにも思われます。

編集部:第2版の語釈は「ある人に関する、世間にあまり知られていない話。その人の隠れた面をよく表わしているような話」とありますが、ご紹介いただいた例には「世の中に余りによく知れてゐる彼の逸話の一節」とありますから、別のブランチを設けたほうが良いということになりますね。語義については、これを踏まえつつ、全体としてももう一度用例をあたり直して検討すべきかと。

著書・作品名:泣いじやくり

媒体形式:単行本

刊行年(月日):1911年

著者・作者:髙村豊周

掲載ページなど:30ページ〔髙村豊周(1992)『髙村豊周文集Ⅰ』〕

発行元:髙村豊周文集刊行会